「アンジュールある犬の物語」の凄さと作者ガブリエル・バンサン

タイトルイメージ図

 

私のブログは「アンジュールのノマー 中年男のある日のこと」という名前です。

大好きなベルギーの絵本作家カブリエル・バンサン女史の「アンジュールある犬の物語」から勝手にいただきました。

un jour:[アンジュール]は、フランス語で「1日」 他に、副詞句として、(過去の)ある日、(未来の)いつか、そのうち、という意味があります。

今日は「アンジュールある犬の物語」のお話をします。

「アンジュールある犬の物語」美大生だった頃の出会い

都内の本屋でこの「アンジュールある犬の物語」と出会いました。

絵本コーナーに平積みしてある白い本の表紙が目に入りました。

「おお!すげえデッサン!」 立ち止まり、本の表紙を見た。

「この犬、なんか悲しそう、シッポたたんでるし。

それにしても、すげえデッサン力!」一目で撃沈してしまいました。

これが出会いでした。

美大生なので、デッサンとかクロッキーとかに目が肥えているんです。

美大のデザイン科だったので、デッサンの授業はほとんどなかった。

実はデッサンは、美大入学前に、美術系の予備校でみっちり上達したんです。

石膏像や人体クロッキーをよく描きました。

当時、美大の入試には学科以外に実技試験があり、デザイン科は鉛筆デッサンと色彩構成デザインが必須でしたから、美術系予備校へ行ってデッサン力を身につけるんです。

芸大美大を受験する人は、そうしないと合格しません。

ある程度のデッサン力がないと絶対受かりませんから、デッサンとかクロッキーを沢山練習しました。

そんなことがあるので、いいもの・美しいものにすぐ反応してしまいます。

「アンジュールある犬の物語」「なに!これスゲエ!」

鞄を床に置き、その本を両手に持って、じっくり表紙を見て、ゆっくりページをめくった・・・「ん!犬捨てられた?」・・・「犬捨てるなよ!家族だろう!」・・・本屋に居るのに、いきなり物語の世界にトリップしてしまった。

捨てられた犬は、訳も分からず車を追いかける。

必死だ!車はスピードを上げどんどん遠ざかる。

すごいスピード感!!もう追いつけない!・・・この「アンジュール」には文字が一切ありません。

心で読み感じる本なんです。

スライド映像を観ているようで自分の想像の世界へ入り込んでしまいます。

白い画面に少し柔らかいB系の鉛筆で描かれています。(きっとステットラーの鉛筆と練消しで描いたに違いない)線の一本一本が生きている。

線に迷いがないから圧倒される。

主題が絶妙なバランスで配置され、余白が現場の空気を伝えている。

太陽光線を意識しているので陰影がとても美しく、時間経過をストレートに伝えている。

静と動のシンプルな無駄のない線描は、時間の経過ともに犬の気持が、驚きから諦めと絶望へ変わったことを表している。

『嘘だろ?僕は本当に捨てられたんだ』・・・今まで目にしたことのない光景や愛する家族との別離。

孤独と絶望、襲い掛かる不安から、ただひたすらに歩き彷徨う。夜が明け、孤独と絶望は空腹感に変わり、街を彷徨う。

そんな絶望の淵に明るい光が・・・

続きは、ご自分の心で読み感じていただければ良いと思います。

イメージ通りに作られた yamaguchi04さん が投稿されていたのでご紹介します。 

YouTube でご覧ください。すごい素敵な音楽付きで感動しますよ。

 unjour un chien – Duration – YouTube  

 

この「アンジュールある犬の物語」は、文字が全くないデッサン絵本だからこそ、読み手は《色のない単色の絵画》から自分の想像した世界を容易にイメージできるのです。

圧倒されるデッサン素描には文字はいらないのです。

私はその日

その本屋に1時間ほど居た。

何度も何度も、全57ページの本を、1ページ1ページ ゆっくりじっくり 観た。

「すごいデッサン力」「すごい好き」「こんなにデッサン力があればいいよな」・・・貧乏学生でしたので立ち読みです。

購入したくてもできませんでした。(本屋さん、申し訳ございませんでした)

中年になった今も

たまに図書館へ行ったときは、カブリエル・バンサン女史の作品を探して読んだりします。

今でも大ファンです。

最近、仕事の合間にぼ~としたいときがあります。

そんな時「アンジュールある犬の物語」を書棚から引っ張り出して観たりします。

愛犬ビクター

14年前。

元来、犬好きだったので、子供たちにせがまれてラブラドール・レトリーバーの子犬を飼うことになった。

ペットショップでちょっと大きくなて売れ残ってしまった彼を初めて見たとき、可愛くて、両手で抱っこして、ギューと抱きしめた。

「よろしくね」 売れずに待っててくれたんだね。

妻も二人の(4歳と8歳)子供たちもそう思った。

どこに行くにも一緒、遠出の旅行も一緒に行ったし、海や山のキャンプももちろん一緒だった。

子供たちと一緒に成長してくれた14年間、彼と過ごした時間は、私たち家族の歴史そのものです。

でも昨年のクリスマスに彼は老衰で逝ってしまった・・・

『一切のもの総て、生ずるものは必ず滅し 寿命、無量というも必ず終わりあり 盛んなるものにも必ず衰えあり 会うものにも必ず別離あり・・』(純陀品より抜粋)

 

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カブリエル・バンサンの生涯を簡単にまとめてみました

女史は、1928年6月19日(昭和3年)~ 2000年9月24日(平成12年)享年72 本名:モニーク・マルタン。ガブリエル・バンサンはペンネームです。 

ベルギーの首都ブリュッセルに4姉妹の3女として生まれました。

地元ブリュッセルの美術学校で絵画を学びます。

卒業後、画家としてして活動するもなかなかデビューできません。

結婚は生涯で一度もしなかったようです。

女史が18歳の頃、日本の水墨画と出会います。

その影響は大きく、墨色の濃淡、にじみ、かすれ、などを表現の要素としたものが、後の独特の色のない単色の絵画につながっています。

その後も終生、デッサン修練を怠らなかったと云われています。

バンサン女史の絵の最大の特徴である線描の確かさは、その努力のたまものだと思います。

まさに「継続は力なり」です。32歳の時初めて、ブリュッセルの画廊で個展を開き、好評だったようです。

54歳(1982年)で絵本作家としてデビューするまで、美術学校を卒業してから30年の歳月が流れました。

とても下積み時代が長かった遅咲きの天才だったんですね。

デッサン絵本の処女作はこの「アンジュールある犬の物語」 アンジュールは、フランス語で「1日」という意味、ある犬の一日のお話です。

これは【絵本の原点】と云われていますし、「字のないデッサン絵本」の傑作とも云われています。

その後次々に作品を発表します。 

バンサン女史が日本で出版したものは全部で48冊だそうです。

(主な作品は後で記載しておきます)晩年、癌を患いブリュッセル市内の病院で他界しました。

業界デビューしてから約18年程の間に世界中のに多くのファンが出来て、そのファンの心を豊かにしてくれた。

そしてこれからもたくさんの新しいファンの人たちが増えて、その人達の心を豊かにしてくれると思います。感謝です。

 

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カブリエル・バンサンの主な作品を簡単にまとめてみました

日本で出版したものは全部で48冊だそうです。

アーネストとセレスティーヌの絵本シリーズ全24冊 ブックローン出版(現BL出版)
くまのアーネストおじさんとねずみのセレスティーヌの不思議な共同生活のお話シリーズです。

1「かえってきたおにんぎょう」1983・・・クリスマスのお話
2「ふたりはまちのおんがくか」1983・・・ふたりの愛の物語
3「あめのひのピクニック」1983・・アーネストは雨のなかでのピクニックを提案します
4「ふたりでしゃしんを」1983・・・セレスティーヌは写真の中の誰かに嫉妬したり不安になったりと・・・
5「まいごになったセレスティーヌ」1985・・・セレスティーヌが美術館で迷子に!
6「ふたりのおきゃくさま」1985・・・アメリカにいるおばさんを迎えるお話
7「びょうきになったアーネスト」1988・・・セレスティーヌがてきぱきと看病してくれてます
8「ふたりのインテリア」1988・・・おばさんのために出来上がったお部屋は一見素敵・・・
9「サーカスがやってきた」1989・・・アーネストは以前、ピエロをしていたの?
10「セレスティーヌのクリスマス」1983・・・お金はなくても、自分たちでできるクリスマスを楽しみたい
11「アントワーヌからのてがみ」1991・・・アントワーヌという男の子から届いた手紙
12「セレスティーヌとプラム」1993・・・プラムでジャムをつくりたいセレスティーヌ
13「アーネストがころんだ」1995・・・ころんで怪我をしたアーネストを介抱します
14「ちいさなもみの木」1996・・・思いやるこころがクリスマスに素敵な雰囲気を作ってくれます
15「ふたりでめいろへ」1999・・・
迷路の広場で迷子になってしまいます
16「とおいひのうた」1999・・・セレスティーヌのために、バイオリンをひいて、あのうたをうたってあげる
17「セレスティーヌのきまぐれ」2000・・・機嫌の悪い日もあります
18「セレスティーヌのこや」2002・・・アーネスト手作りの小屋のお話
19「ボレロがやってきた」2002・・・ともだちのボレロからシラミをうつされたセレスティーヌ
20「セレスティーヌのおいたち」2003・・・ふたりの幸せな関係が永遠に続くことを予感させるシリーズ最終作
(入院中のカブリエル・バンサン女史は病院を抜け出して描いたそうです。シリーズを完結させたかったようです)
デッサン絵本
21「セレスティーヌ アーネストとの出会い」1988・・・ふたりの運命的な出会いを描く超大作のデッサン絵本
22「あの夏」1995・・・ふたりにとって大切なひと、ガズーをなくした(カズーは人間)
別巻
23別巻1「ラッタカ タン ブンタカ タン」2011・・・養父と養女のような関係に描かれています
24別巻2「こわかったよ、アーネスト」2011・・・ちょっと目を離した隙に・・・

「アンジュールある犬の物語」1986・・・デッサン絵本 ブックローン出版
「たまご」1986・・・デッサン絵本 ブックローン出版 海辺に突然現れた巨大なたまごから始まります。
改めて本名である「モニーク・マルタン」
で出版した一冊
「砂漠」 1991・・・画集 ブックローン出版  砂漠の住人トゥアレグの民と共に旅し、描き続けられたデッサン
「マリオネット」1993・・・BL出版  少年マリオネットと人形師のおじさんの心の交流
「老夫婦」1996・・・BL出版  老夫婦になった二人の現実。シャンソン歌手のジャック・ブレルの「老夫婦」に
感銘を受け、歌の世界を絵にしたもの
「裁判所にて」1998・・・BL出版  ブリュッセルの裁判所で20年間にわたって描かれたデッサン。
人々の生きざまを独特なやさしさで描く。バンサン女史の最高傑作
「ナビル」2000・・・BL出版     少年ナビルは学校の先生から大きなピラミッドの話を聞き、どうしても見たくなり
ひとりで出かけます・・・・初めての日本版オリジナルのデッサン絵本
「ヴァイオリニスト」2001・・・BL出版  期待された若きヴァイオリニストがコンクールに落選、失意の底から
周囲の人達のやさしさにより立ち上がる話・・・日本版オリジナルのデッサン絵本

この他あと16作品が日本で出版されているようです。
(全部読んだことはありませんので気になる方はグーグルしてください)
 

 終わりに

カブリエル・バンサン女史の作品に出会えて、人生が少し豊かになりました。

そして、これらの素晴らしい作品を日本にたくさん紹介いてくださった

BL出版様 に感謝申し上げます。

以上です。

最後までお読みくださりありがとうございました。 アンジュールのノマー

 

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